伊藤先生の雲州人参
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プロジェクトの概要

「薬用人参」「高麗人参」「朝鮮人参」これらは同じものを指します。“雲州人参”は、日本の島根県大根島を中心に栽培されてきた薬用人参で、200年にわたる伝統があり、品質は開城(ケソン・北朝鮮)の人参とともに世界一との評価を受けています。ところが近年日本では栽培農家の高齢化などが深刻で生産量が激減しています。

生産量が減少した背景には、播種・育苗から収穫まで約6年という長い期間が必要であることや、栽培には栗の木の支柱と麦わらの覆いで作る独特の小屋がけが必要で、この低めの高さの屋根の下での作業が重労働であるということ、また採種後のタネの催芽処理に始まる一連の栽培技術が秘匿されてきたということなど、多くの要因があるようです。

本プロジェクトでは、この日本の薬用人参の生産の現状を調査し、特に品質が良いとされる雲州ニンジンを中心に、科学分析を応用することで栽培方法の効率化を提案し、栽培振興を図ろうとするものです。プロジェクトでは、実際に生産された薬用人参が世の中に出ていくところまでを実現しようと奮闘しています。

プロジェクトの正式名称

「新メソッドによる薬用ニンジンの品質評価を軸とした伝統的栽培法数値化と効率的生産法の開発(AMEDの課題番号JP18ak0101106)」

なんとも長いタイトルがついていますが、実際にはどんなプロジェクトなのかを簡単にご紹介しましょう。

1.効率的で高品質なニンジン生産の条件を設定する

日本の主な伝統的薬用人参産地は、長野県、福島県、島根県の3箇所にあります。島根県大根島の栽培地を中心に、他の産地の栽培方法も調査し、また全国各地の協力圃場での試験栽培の様子を加え、ニンジンの成分、ニンジン畑の土壌の成分、また土壌中の菌類等について、それぞれ分析し、比較を行います。薬用として出荷されるニンジンの栽培は、通常、6年間なので、各年数のニンジンについてデータを収集し、効率的で高品質な生産条件を提案していきます。

2.ギンセノシド分布の分析法確立

ギンセノシド(ジンセノシド)とは、ニンジンに含まれているサポニン類の総称です。サポニンとは、植物に広く含まれているサボン(石鹸)のように泡立つ化合物という意味の言葉で、非常に広範な種類の化合物を含みます。生体に対して機能性(効能効果)を現すものもあれば、毒性を示すものもありますが、機器分析では各成分を細かく分離することが難しい成分です。本プロジェクトでは、開発してきた高分解能を持つキャピラリーモノリスカラムをさらに発展させ、30種類とも50種類とも言われるギンセノシド類を、少量の分析サンプルから詳細に分離分析、定量分析することで、新たなニンジンの品質評価系の提案を目指します。

3.諸条件で栽培したギンセノシド分布の測定と最良栽培条件の検討

1. および2. で得られる分析結果を、協力農家、協力企業の圃場で試験栽培するニンジンに適用し、最適な栽培条件を探っていきます。現地調査を通じて、現状の問題点を把握し、栽培を促進するためにどのように変革すればいいのか、何が必要なのか、を栽培者さんたちと一緒に考えていきます。見た目が重視されるニンジンの品質評価に、成分分析を応用した知見を加え、生薬原料としてだけではないニンジンの可能性を追求するという意味でも、多様な栽培方法を提案したいと考えています。

4.その他のニンジン類の大根島での育種に関する開発研究

上記に述べているニンジン(薬用ニンジン)は、植物としてはオタネニンジンと呼ばれるものです。ニンジンの仲間には、ほかにも同属で種が異なるものに、トチバニンジン(生薬になると竹節人参)、サンシチニンジン(田七人参)、アメリカニンジンなどがあります。薬用人参で得られた知見やノウハウの発展形、応用形として、これら同属のニンジン類の生産にも取り組みたいと考えています。

5.地域社会活性化への貢献

超高齢化や人口の都市部への集中など、多様な悩みを抱える地域社会を活性化させようという取り組みに、薬用植物栽培を取り入れようという自治体がある。また、伝統的に薬用人参栽培に取り組んできた地域も、超高齢化や人口減少等の現実に直面しているところが多い。本プロジェクトでは、伝統的な薬用人参栽培の価値観とは少し異なる切り口でニンジン栽培を展開し、新たな産地づくりに挑戦している。新型コロナ禍で経済活動が低迷し、プロジェクトも大きな影響を受けたが、今後、経済状態の回復と共に、成果が目に見える形となって発信できるrようになることを期待している。